「シラノ・ザ・ミュージカル」
作・作詞・演出/クーン・ヴァン・ダイク 作曲/アト・ヴァン・ダイク
翻訳・訳詞/青井陽治 美術/エリック・ヴァン・バレン 衣装/ヤン・タックス
勇気、希望、犠牲心=献身、とりわけ愛の物語に感銘を受けたと
演出のクーン・ヴァン・ダイクがプログラムに書いているが、
まさに、今の時代の若者に必要な物語が、このシラノである。
日本人が演じる所謂、赤毛ものと言われる外国の演ものは、
以前は別にして最近は日本人の人相が扁平になったせいか、
見るに耐えられないものがある。
最後に残された、赤毛ものを演じることの出来る役者は、
市村正親と私は思っている。
その市村がこのシラノに出会ったことは、
彼の役者人生の中でも大変いいことであった。
演出の言う勇気、希望、犠牲心=献身、そして愛を、
市村哲学で舞台の上で丁寧に演じている。
ロクサーヌに対しての心の中にだけ秘めている愛を、
さりげなく客席に向けて訴えたりして客に共感を与える。
クリスチャンの恋文代筆役で、巧みに自分の心のうちを
ロクサーヌの心の中に植え付けていくあたりも、
市村の個性が出ていて哀感を感じさせる。
暴漢に襲われ怪我をするあたりは、省いてもいいかも知れない。
何と言っても圧巻は、最後の夕闇迫る修道院で死期を感じる中で、
ロクサーヌに自分の本心を伝えるところである。
かつてファントム・オブ・ジ・オペラで怪人を演じた市村だけに、
それとシラノをうまくミックスさせ、
彼ならではのシラノを見せる。
そこには、献身の中にも本当の愛を告白できた嬉しさを感じることが出来る。
オーバーに言えば、市村はこの場面を演じたかったのだと思った。

ロクサーヌ役の西田ひかるは可憐に見えたが、ロクサーヌという人物から、
もっと光輝きボリュームのあるものが欲しい。
クリスチャンに惚れられ、シラノに恋焦がれられた人なのだから。
クリスチャン役の山本耕史はロクサーヌの目を狂わすほどの人だけに、
凛々しく力強いものが欲しいと思った。
それによって3人の関係がもっと明確に
舞台の上に生まれたのではないだろうか。
舞台装置も音楽も素晴らしい、場面場面の切れもよく、演出がいい。
他に、北川潤、園岡新太郎、山本隆則、と元四季のベテランが締めており、
舞台の密度が濃い。
宝塚歌劇団の花組で男役だった海峡ひろきが、
柄の大きいのをうまく使い堂々としていたのがいい。
東京公演では更にいい舞台にあるだろう。
久々のすっきりした舞台であるのに、大阪初演のせいか、
入りの方がもうひとつのようであった。
最後に、シラノがカーテンコールで鼻を客席に投げるが、
その鼻の中には<心いき>と書いてあると言う。
はなはだ素晴らしい鼻芸である。

      大阪松竹座  2000年12月17日楽日 ちゅー太



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